頭頸部表在がんについて


頭頸部表在がんという言葉は聞き慣れない言葉かと思います。簡単に言うと、頭頸部領域にできた癌のうち、深い所にある筋肉に達しない癌の事を言います。もともとは食道癌などで提唱された疾患概念ですが、近年、頭頸部領域にも存在する事が分かってきて、2012年には第5版の頭頸部癌取扱い規約で初めて明確に定義されました。そこには「咽頭、喉頭では癌細胞の浸潤が上皮下層(SEP)にとどまり、固有筋層(MP)に及んでいないものを表在がんと定義する。リンパ節転移の有無は問わない。」と記載されています。言葉だけだと分かりにくいので、これをシェーマにすると図1の様になります。診断の難しい粘膜上皮内に限局する癌(上皮内癌)から、内視鏡ですぐに分かる大きさの隆起した癌まで、固有筋層に浸潤していなければ、すべて表在がんとなります。通常は頸部リンパ節転移がない事が多いですが、時に頸部リンパ節転移を伴う事があります。あまり知られておらず、規約にもまだ記載はありませんが、口腔癌にも表在がんは存在し、当科では咽喉頭表在がんと共に治療を行っています。

図1(表在がんのいろいろ)

頭頸部表在がんの診断について

近年、電子内視鏡システムの性能が向上し、またそれを利用する医師の診断能力の向上により、上記のような表在がんがたくさんみつかるようになりました。特にNBI(Narrow Band Imaging/狭帯域光観察)などの特殊な付加機能を有した電子内視鏡システムによる観察が癌の早期発見に大きく寄与しており、当科でもNBIを有した電子内視鏡システムを利用して診療しています。また、頭頸部領域の癌、特に中下咽頭癌と食道癌は重複して存在する事が多いと言われていますが、当科は食道・胃外科と綿密に連携して診療にあたっており、食道癌に合併した頭頸部表在がんも多数紹介され治療を行っています。こういった重複癌は、アルコールを飲んで顔が赤くなり(flusherと呼びます)、かつ習慣的に飲み続けているという人に多く、注意が必要です。

頭頸部表在がんの治療について

癌の範囲があまり広い場合は放射線療法で治療する事もありますが、当科では基本的に手術で切除して治療し、一度しか使えない放射線療法は担保する方針を取っています。アプローチ法としては、頸部を外切開する方法と、より侵襲の少ない経口的な方法がありますが、当科では頭頸部表在がん(多くは下咽頭表在がん)に対して経口的切除術を行っています。下咽頭表在がんはのどの奥の方の深くて見えにくい所にあるため手術が難しく、2009年からは彎曲型喉頭鏡という特殊な機器で術野を展開して、食道・胃外科と共同で消化器内視鏡下に切除術を行っています。この術式はELPS(endoscopic laryngo-pharyngeal surgery)と呼ばれています。手術中の所見をシェーマにすると図2の様になります。従来のまっすぐな喉頭鏡を使用する経口的手術に比べ、歯や舌にかかる負担が少なく、患者さんに優しい手術法です。通常は術後3~5日で飲食が可能となり、術後10日前後で退院できますが、切除範囲が広いか深くなった場合は術後の嚥下機能が回復するのに時間がかかり入院が長引く場合もあります。声が嗄れる事もありますが、音声機能は残ります。術後、数ヶ月から数年が経過してから頸部リンパ節転移が出現したり、別の場所に別の表在がんが出てくる事が、それぞれ2割程度あり、厳重な経過観察が必要です。

図2(ELPSのシェーマ)

術中術後の内視鏡所見

術中1、2

術後1、2

ページの先頭へ