難聴・耳鳴・補聴器外来 / 顔面神経外来

概要

毎週金曜日の午後に「きこえ」、「顔面神経」に関する専門外来を開いています。
耳科学を専門とする医師により、難聴、耳鳴りや顔面神経麻痺などの症状のある方を対象に、診断、治療方針の決定を行っております。
専門外来終了後に毎回担当医全員が参加して専門カンファレンスを行い、初回受診の方および難治性の方、状態に変化の見られた方などについて、治療法の選択・手術適応の決定なども含めた詳細な検討を重ねています。

特色

一部を除き感音難聴(内耳や内耳神経などの障害による難聴)は、現在の医療では治すことができません。しかし、当施設では、全ての方の聴覚の再獲得をめざし、気導補聴器のほか、人工聴覚器としてBAHA(骨固定型骨導補聴器)、両側重度難聴に対する人工内耳手術などを行っています。
外リンパ瘻に対しては、耳鏡ホルダーを用いた耳内のみの切開による低侵襲手術を行っています。
重症の顔面神経麻痺に対しては顔面神経減荷術を行い、良好な成績が得られています。
聴神経腫瘍に対しては1991年以降多数の手術経験があり、経迷路法もしくは中頭蓋窩法による腫瘍摘出術を行っています。

受診の流れ

初診の方はまず午前中の一般外来を受診していただきます。その後、各種の聴覚検査・CT・MRIなどの必要な検査を施行し、その上で金曜午後の専門外来を受診していただいています。
突発性難聴、外リンパ瘻、顔面神経麻痺などの早期治療が必要な病気では、初診時より治療を開始し、途中から本専門外来にて診察しています。

診察の対象となる主な疾患

突発性難聴、急性低音障害型感音難聴
音響外傷、騒音性難聴
外リンパ瘻
メニエール病、蝸牛型メニエール病、遅発性内リンパ水腫
ステロイド依存性感音難聴
機能性難聴(心因性難聴)
特発性両側性感音難聴
先天性難聴、遺伝性難聴、内耳奇形
聴神経腫瘍、小脳橋角部腫瘍
加齢性難聴(老人性難聴)
特発性顔面神経麻痺(ベル麻痺)、耳性帯状疱疹(ハント症候群)

代表的な疾患と治療

突発性難聴

突発性難聴は、これまで耳に病気がなかった方が、あるとき突然、通常は片耳の難聴になる病気です。
多くの場合には耳鳴りを伴い、約半数の方がめまいを自覚しています。
原因としてウイルス感染説や内耳循環障害説などが推定されていますが、本当の原因は残念ながらわかっていません。
治療としては、ステロイド剤、血管拡張剤、代謝賦活剤やビタミン製剤などを点滴もしくは経口で用います。薬物治療以外では、適応症例に対して当院高気圧治療部にて高気圧酸素治療を行うこともあります。
1カ月以内にほとんどの方で難聴は固定して治らなくなってしまいます。従って、早期の治療が必要です。

急性低音障害型感音難聴

急性低音障害型感音難聴は、従来は突発性難聴の1つと考えられてきましたが、現在では病態の異なる別の病気とされています。
急性あるいは突発的に耳閉塞感、耳鳴り、難聴などが生じ、めまいは通常ありません。聴力検査では、低音域の周波数のみが障害される感音難聴を示します。
突発性難聴との違いは、約半数に難聴の変動や再発がみられることです。また、両耳に生じることもあります。6%くらいの方は難聴とともにめまいを繰り返すようになりメニエール病に移行することがあります。ごく稀に、長期経過中に難聴が進行していくことがあります。
治療としては、代謝賦活剤やビタミン製剤、利尿剤、ステロイド剤などを用います。自然経過にて難聴が良くなる方もいます。

音響外傷

通常の日常生活ではきくことのできないような強い音に曝露し、急に難聴や耳鳴りが生じるものです。
火薬の暴発、化学実験中の爆発事故、耳もとで風船が破裂などの爆発音や破裂音が原因となりますが、同時に生じる気圧の変化も難聴の発症に関与します。
コンサートやクラブでのスピーカからの音響、射撃音、交通事故時のエアバッグ展開時の音響なども原因となります。
治療として、ステロイド剤、血管拡張剤、代謝賦活剤やビタミン製剤などを使用します。

外リンパ瘻

咳、鼻かみ、いきみなどの内因性要因、ダイビング、飛行機などの外因性要因により髄液圧と中耳圧の急激な変動が起こり、難聴、耳鳴り、めまいなどが生じるものです。
外傷(側頭骨骨折)に伴うこともあります。
誘因が、全く見あたらないこともあります。
難聴は、変動する、変動しながら悪化する、改善した難聴が再び悪化することがあります。
めまいのみの外リンパ瘻もあります。
はじけるような音(pop音)、水が流れるような耳鳴り、耳内に圧をかけるとめまいがする症状(瘻孔症状)が認められることがあります。
難聴の治療に対しては、頭を30°挙げた状態で安静にし、突発性難聴に準じステロイド剤などを用います。薬物治療に抵抗性の難聴や慢性的なめまいでは、内耳窓閉鎖術にて症状が回復することがあります。

ダイビング後に生じた左外リンパ瘦確実例


メニエール病

メニエール病は、回転性(ときに浮動性)のめまいを反復する病気ですが、耳鳴り、難聴、耳閉塞感、聴覚過敏などの聴覚症状も合併します。
内リンパ水腫が病態と考えられていますが、原因は明らかになっていません。
聴覚症状のみのメニエール病を蝸牛型メニエール病、めまい症状のみのメニエール病を前庭型メニエール病といいます。
聴覚症状は、めまいの前に起こる場合、同時に起こる場合、後に起こる場合があります。
難聴は、初期には低音域が障害されますが、発作を反復すると進行していきます。時間とともに逆の耳にも難聴が生じること(20-30%)がありますので、聴覚管理が重要です。
治療として、規則正しい生活(睡眠不足の回避)、ストレスの軽減などの生活指導を行います。薬物治療として、利尿剤、血流改善剤、ビタミン剤、ステロイド剤、抗めまい剤、安定剤などが用いられます。重症のめまいに対しては、適応を十分に考えながら内リンパ嚢手術、前庭神経切断術が行われます。水分摂取治療、有酸素運動の有効性もわかってきました。

遅発性内リンパ水腫

一側の高度難聴が発症してから、数年〜数十年の後に内リンパ水腫がどちらかの耳に生じ、めまいや難聴をきたすものです。
高度難聴側に内リンパ水腫が生じる同側型遅発性内リンパ水腫と、非高度難聴側に内リンパ水腫が生じる対側型遅発性内リンパ水腫とがあります。
対側型遅発性内リンパ水腫では、聴力の良い耳に難聴が起こるため、聴覚管理が重要となります。
治療は、メニエール病治療に準じて行います。

ステロイド依存性感音難聴

最初は突発性難聴や急性低音障害型感音難聴と同様に突然難聴になります。この難聴はステロイド剤にて回復しますが、ステロイド剤を中止すると難聴が再発するものです。
全身性の病気(高安病など)に合併する全身型と難聴のみが症状の局所型があります。
原因は明らかではありませんが、自己免疫との関係が考えられています。
治療は、薬の副作用に注意しながらステロイド剤を長期投与します。聴力検査結果をみながら、ステロイド剤を少しずつ減らしていきますが、漢方薬(柴苓湯など)との併用も行います。

機能性難聴(心因性難聴)

聴覚経路に障害がないにもかかわらず、純音聴力検査にて難聴を示すものです。
機能性難聴の多くは心因性難聴であり、心理的要因により発症します。
難聴の自覚がないこともあり、めまいや視野障害を合併することがあります。
小児例では学校関係(友人関係、音楽の授業など)や家庭関係(両親の離婚など)など、成人例では職場での不適応、夫婦(男女)間のもつれなどが背景にある場合があります。
耳もとで大声を出される、耳を叩かれる、交通事故が誘因になることがあります。
診断には、聴性脳幹反応(ABR)、耳音響放射(OAE)、自記オージオメトリーなどが有用です。
心理的要因が明らかな場合には、問題の解決が重要です。
必要により、心療内科医、精神神経科医(小児神経精神科医)と連携して治療を行います。

特発性両側性感音難聴

原因不明に、両側の難聴が進行する感音難聴です。
各種聴覚検査や画像検査のほか、定期的に聴力検査を行います。
急激に難聴が悪化することがあり、その際には突発性難聴に準じた治療を行います。
両耳の重度難聴では、人工内耳手術が有効です。

突発性両側性感音難聴に対する右人工内耳手術


先天性難聴

新生児650人に1人が、高度難聴児として産まれてくると言われています。両耳の高度難聴児では、発達やコミュニケーション能力に支障をきたすため、早期発見、早期療養が必要となります。
先天性難聴の50%以上が遺伝性難聴であり、残りは先天性風疹症候群、サイトメガロウイルス感染などの環境要因が関与します。
当施設では乳幼児聴力検査、聴性脳幹反応(ABR)などによる精密聴覚機能検査を行っています。

遺伝性難聴

遺伝性難聴は、難聴以外の症状を伴う症候群性遺伝性難聴と難聴を主症状とする非症候群性遺伝性難聴に分類されます。
非症候群性遺伝性難聴は遺伝の形式により、DFNA(常染色体優性遺伝形式)、DFNB(常染色体劣性遺伝形式)、DFNX (X連鎖性)に分類され、それぞれ報告順に番号がつけられています。ミトコンドリア遺伝性のものもあります。
現在までに50以上の非症候群性遺伝性難聴の原因遺伝子(難聴遺伝子)が判明していますが、実際には100〜200の難聴遺伝子があると言われています。
DFNA2A(原因遺伝子KCNQ4)は10〜20代より難聴が明らかになり、聴力検査では高音障害型の感音難聴を示します。
DFNA6/14/38(原因遺伝子WFS1)は、低音障害型の感音難聴を示します。難聴の進行はさまざまであり、一般に中等度から高度の難聴を示します。
DFNA8/12(原因遺伝子TECTA)の多くは、進行性の感音難聴を示し、めまいは稀です。特徴的な皿型の感音難聴を示すことがあります。
DFNA9(原因遺伝子COCH)は、めまい発作を合併する遺伝性難聴として重要です。しかし、実際のめまいの頻度は、20〜100%と報告によりばらつきがあります。難聴は、20歳頃までに発症する場合と40歳頃に発症する場合があります。高音障害型の感音難聴を示しますが、年齢とともに難聴は悪化します。
DFNB1(原因遺伝子GJB2)は最も頻度の高い遺伝性難聴であり、日本でも先天性難聴の25%を占めます。軽度から高度までの先天性難聴を示しますが、難聴の進行は稀とされており、めまいは起こりません。
DFNB4/Pendred症候群(原因遺伝子SLC26A4)は、前庭水管拡大症という内耳奇形を伴います。難聴は先天性ですが、経過中に変動や進行を認めます。また、回転性めまい発作を繰り返すことがあります。甲状腺腫が認められると、Pendred 症候群といいます。
DFNB9(原因遺伝子OTOF)はauditory neuropathy spectrum disorder(OAE検査が正常でABR検査が高度障害〜無反応)を示します。難聴は先天性であり、程度は軽度から重度です。めまいは認めません。
ミトコンドリアDNAの1555A>G変異の難聴は、先天性もしくは後天性に発症し、進行性です。重要なことは、ある種の抗菌剤(アミノ配糖体系抗菌剤)の少量の投与でも、高度の難聴が発症しうることです。結核の治療薬(ストレプトマイシン)を使用して高度の難聴が生じた方がご家族にいらっしゃる場合には、アミノ配糖体系抗菌剤を使用しないことで難聴の発症や進行を予防できる可能性があります。
Branchio-oto-renal症候群は、難聴、鰓原性奇形(先天性耳瘻孔、側頸嚢胞、耳介奇形など)、腎奇形を特徴とする常染色体優性の症候群性遺伝性難聴です。腎奇形を認めないものは、Branchio-oto症候群といいます。中耳奇形のほか前庭水管拡大症を含む内耳奇形を合併することがあります。EYA1、SIX5、SIX1の3つの原因遺伝子が同定されています。
Usher症候群は、難聴、網膜色素変性症を示す劣性遺伝形式の症候群性遺伝性難聴であり、めまいがある場合とない場合があります。難聴の程度や進行の有無、めまいの有無、網膜色素変性症の発症時期などから3型に分類されています。type IとしてMYO7A、USH1C、CDH23、PCDH15、SANS、type IIとしてUSH2A、GPR98、DFNB31、type IIIとしてCLRN1が原因遺伝子として報告されています。
ミトコンドリア脳筋症(MELAS)では脳卒中様発作、けいれん、反復性頭痛、反復性嘔吐、のほか難聴を認めます。約30のMELAS関連変異が同定されていますが、80%はミトコンドリアDNAの3243A>G変異です。3243A>G変異は母系遺伝の糖尿病と難聴(MIDD)の原因にもなります。難聴は進行性で、多くの場合は軽度から高度の左右対称性のある両側の高音障害型の感音難聴を示します。

聴神経腫瘍

聴神経腫瘍は、大多数でバランスをつかさどる前庭神経に生じる良性腫瘍です。初期には、片方の耳の難聴・耳鳴りやめまいをきたしますが、腫瘍が大きくなると顔面神経麻痺、顔面の知覚低下などが生じることがあります。
治療方針は、年齢や腫瘍の大きさにより左右されますが、大きな腫瘍でなければMRIによる定期的な経過観察を行います。
定期的な経過観察にて腫瘍が増大する場合には、手術的治療や放射線治療(ガンマナイフ)をおすすめしています。
手術的治療としては、当施設では経迷路法、中頭蓋窩法による腫瘍摘出術を行っています。腫瘍が脳幹や小脳に及ぶ場合には、脳神経外科の先生に協力していただき治療を行います。
腫瘍が大きい場合には、脳神経外科にて後頭蓋窩法手術の適応を検討していただいています。

左聴神経腫瘍(経迷路法)


加齢性難聴(老人性難聴)

加齢に伴う感音難聴は、一般に老人性難聴と呼ばれています。
聴覚の加齢変化は早いと30代後半から始まり、難聴の程度には個人差があります。
多くの場合、聴力検査では左右差のない高音域の感音難聴を示します。
加齢性難聴を回復させる治療は今のところありません。騒音による影響は加齢変化に加わりますので、大音量での音楽鑑賞や騒音環境下での生活をできるだけしないようにすることが重要です。また、高血圧、糖尿病などにより加齢性難聴は悪化するとされていますので、日頃からの健康管理も重要です。
両耳の聴力が40dBより悪くなれば補聴器をおすすめしています。補聴器装用の前には、ことばの聴こえの検査を行い、ことばをどれだけ聴取できるかを調べる必要があります。

顔面神経麻痺

片方の顔の動きが悪くなり、口から水や食べ物がこぼれる、眼が閉じないなどの症状が起こります。
顔面神経麻痺の半数以上を占めるのが特発性顔面神経麻痺(ベル麻痺)です。耳鳴り、難聴、めまいは生じません。
耳性帯状疱疹(ハント症候群)では、顔面神経麻痺のほか、外耳道や耳介の発疹、耳の痛み、耳鳴り、難聴、めまいなどが生じます。顔面神経麻痺の約15%を占め、神経に潜伏する水ぼうそうウイルス(帯状疱疹ウイルス)の再活性化が原因とされています。
これらの病気では、周囲が骨に囲まれている顔面神経に浮腫(むくみ)が起こるため、神経に十分な血液が届かなくなり、神経の変性が起こることが麻痺につながると考えられています。
症状が出現した場合には、早期の治療が必要です。耳性帯状疱疹の方が、一般に特発性顔面神経麻痺よりも予後が不良とされています。
急性期の治療には、ステロイド剤、血管拡張剤、代謝賦活剤、ビタミン製剤のほか、必要により抗ウイルス薬を用います。
当施設では、発症後7〜10日以降に誘発筋電図検査(ENoG)を行っています。ENoGにて正常側と比べ患側の電位が10%以下の場合には予後不良と考えられ、麻痺の程度が完全麻痺の状態であれば手術(顔面神経減荷術)をお勧めしています。

右ハント症候群の耳介帯状疱疹


TRT療法

TRTとはTinnitus Retraining Therapyの略です。TRT療法はカウンセリングと音響療法からなり、脳を耳鳴りに順応させ、耳鳴りによるストレスを緩和させる効果があります。
音響療法としては音楽プレーヤーやラジオの局間ノイズなども用いられますが、ストレスが高い方にはTCI(Tinnitus Control Instruments)と呼ばれる雑音を発生する装置が用いられます。
TCIによるTRTは非常に高い(7~8割)有効性を持っていますが、高度以上の難聴の方や難聴が大きく変動する方には適さない治療法です。また、耳鳴りを消失させたり、聴力を改善する効果はありません。
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